「なに!?オレ様が海賊帽をかぶってるわけが知りたいだって!?」

 酒場の中でひときわ異彩を放っている男が大声を出した。別に聞き耳を立てているわけじゃないけれど、あんな大声で話していれば店中、いや、ユーの町中にだって聞こえているかもしれない。周囲の男たちは大声の主の事を『海賊』と呼んでいるが、本人は何度も海賊じゃないと否定していた。しかしそのいでたちは誰がどう見ても海賊にしか見えない。

「まあ確かに、海賊でもねえのに海賊帽を被っているのはおかしいかもしれねえな」

 その通り、海賊帽をかぶり酒場で飲んだくれて、あんな大声を出す神父がいたらそれこそ驚きだ。その『海賊』は言葉を続けた。

「だがな?世の中には鹿や熊のはく製を頭にかぶっているやつだっているんだぜ?それに比べたら海賊帽なんてかわいいもんじゃねえか。おい、そう思わないか、そこのお嬢ちゃんよ?」

『海賊』の話に聞き耳を立てていた私に、まったく予想もしていなかった出来事が起こった。この『森の黒熊亭』の噂を聞いてたった一人で足を踏み入れた初めての晩に、誰かから話しかけられるなんて思っていなかったし、もちろん心の準備なんて出来ていない。私はすぐに返事をすることができず辺りを見回した。すると店主と思わしき男性が首を横へ振っている。その仕草は、まるで『また一人犠牲者が増えたか』と言わんばかりである。

「あの、私は……海賊帽も、熊や鹿の帽子もかっこいいしかわいいと思います。もちろんスカルキャップも」

「かー、優等生的な回答だねえ。つまらねえ、まったくもってつまらねえ。このままじゃ楽しい夜が明ける前に白けちまうぜ」

 『海賊』はそんなことを言いながら目の前のジョッキを煽ってから話を続けた。

「仕方ねえ、それじゃオレ様が一つ面白い話をしてやるとするか。どんな話かって?それは、オレ様が海賊帽を被ることになったわけってやつさ」

 私は、思わず止めてしまっていた息を大きく吸い直し、周囲の客と同じように、海賊、いやトレジャーハンターの話に耳を傾けた。


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 オレ様がまだ駆け出しの冒険者だったころの話だ。いつものように隠された財宝、まあ駆け出しなんでチンケな財宝さ、こいつを掘り出して罠を外し、鍵を開けて中身を鑑定するってことを日に何度も繰り返していた。

 ある晩、とある宝石屋へ宝石を売っぱらって今日の酒代には困らねえといい気分だったところにその男は現れたのさ。そいつは野郎のくせにオレ様のすぐ隣にピッタリと身を寄せてきやがった。

 その手の素養がないオレ様は思わず飛びのいちまったんだがよ?支えを失ったその男はその場で倒れこんじまった。不思議に思って覗き込んで見るとどうやら怪我をしているらしい。心優しいオレ様はもちろんその男を担ぎ上げてよ、ヒーラーのところへ連れて行ってやったのさ。

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 数時間たってからその男はようやく目を覚ました。むろん礼が欲しくて待っていたわけじゃねえ。まあその、なんだ?行きがかり上、安否は確認しておきたかっただけさ。

 ようやく口が開けるようになったその男、どうやらジェロームから逃げてきたらしい。ジェロームと言えば戦士の街だ。訓練が嫌になって逃げだしたのかと思っちまったが、それくらいで大怪我するはずもねえ。オレ様はなにか秘密がありそうだと感じ取り詳しく聞いてみることにしたのさ。するとそいつの口からは驚くべき話が飛び出してきやがった。それを聞いたオレ様は、こりゃとんでもねえことを知ることになっちまったと、正直言って震えが止まらなくなったんだ。

 なに?怖いのかって?そりゃ違うぜ。武者震いってやつに決まってんだろ。なんってったって、一生遊んで暮らせるほどの財宝が隠されているって話を聞いちまったんだからよ。そいつを掘り当てりゃ日々の酒代に頭を悩ますことも、我慢してばばあを抱くことともおさらばだ。

 なんでも、怪我をしていた男の家系にはとてつもねえ財宝の秘密が代々伝えられていて、それを知られたために狙われ続けているということだ。それじゃそいつをオレ様がいただくためにおめえさんを襲うかもしれねえよ?と言ったらな、その男が知っているのは、その宝に仕掛けられている封印を解除するための魔法の鍵についてだけなんだと。場所や鍵はまた別の家系に伝わっているはずだが、その詳細についてはわからねえってことだ。なるほど、そんな隠し方は聞いたことがねえ。とすると、こいつは本当にどでけえ財宝なんだろう。

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 興奮したオレ様はのどを潤すために、治療院の中にいることも忘れ持っていたラム酒を一口飲んだ。それを見たヒーラーのおっさんは怒り狂ってオレ様に食って掛かってきやがって……まあ当然のように表へ放り出されたわけだ。

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 もう大分時間の遅い深夜の事だ。いくら首都ブリテインと言えど人の気配はねえ。しかしオレ様の目は見逃さなかった。治療院の向かいにある宿屋の窓から漏れる光が、オレ様が放り出されると同時に消えたことをな。まだ駆け出しとは言え、その才能はピカイチだったオレ様は、その不自然さにくせえなにかを感じ取ったのさ。さすがと言うほかはねえだろう?なあ?

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 こうなったら仕方ねえ、このままねぐらへ引き上げても良かったが、面白いことが待ってるかもしれねえ。そう思って治療院の影で待つことにしたのさ。

 明け方も近くなってきた頃、宿屋からこそこそと出てくる人影が見えた。それは明らかにチェックアウトしてきた様子じゃねえ。オレ様はまるで罠を外す時のように慎重に身を隠し、そいつら、五人位だったかな、治療院に忍び寄る影を監視していた。

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 この小さな治療院には裏口なんぞねえ。押し込む気なら正面から入ってヒーラーと一戦まみえることになるだろう。さて、こいつらはどう出るだろうとみていると、驚いたことに一人が屋根に上って火をつけやがった。いくら建物が魔法で保護されていると言ったって中身は別だ。数分もたてば熱くていられなくなるだろう。たまらず出てきたヒーラーとさっきの男が当然のように賊の襲撃を受ける。

 襲撃と無関係なヒーラーのおっさんは、あなたへかまっているひまなどない、なんて言いながらどこかへ立ち去ってしまった。なぜだかわからねえがガードも飛んでこねえ。

 このままじゃせっかく助けたあの男の身があぶねえ。オレ様は四人の賊に囲まれて万事休すと言ったところへ割って入ったのさ。こんなことは平凡なヤツには到底出来ねえ、俺様だからこそなせることだ。お前らもそう思うだろ?

 しかし、火をつけたラム酒のボトルを投げつけたり魔法で応戦したりを繰り返したものの多勢に無勢だ。徐々に追い詰められていくオレ様たちだった。すると男はオレ様に向かってトンデモねえことを言いやがった。ここまで一緒に戦わせておいて、いやオレ様が勝手に加勢したんだが、無関係なんだから逃げろと言いやがったのさ。

 オレ様は思わず言い返したね、別に助けてなんかねえ、めったに味わえねえ刺激があるからオレ様はここにいるんだ、ってな。すると男は呆れたように首を振りやがったのさ。ちょうどそこにいるサボり魔店主みたいにな!

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 まあそんなこんなで襲撃に抵抗してきたオレ様と男だったが、とうとう力尽きるときが来ちまった。背後から音も影もなく忍び寄ってきた賊に男が刺され、そのことに気を取られたオレ様は隙を突かれて棍棒でしこたま殴られ気を失っちまった。

 目覚めてみると頭にはでけえたんこぶが出来てやがって頭が痛くて仕方ねえ。それでもなんとか呻きながら転がってる男へ近寄って安否を確認すると、どうやらまだ息があるようだった。

 しかしこいつを刺した刃には毒が塗ってあったらしく顔が紫色で虫の息だ。大急ぎで解毒の呪文を唱えたが、なんということだ、秘薬袋を持っていかれてしまったらしく解毒が出来ねえときた。

 このままじゃ男が死んじまう、そう思って秘薬を買いに走ろうとしたその時、男は俺様のブーツに手をかけ行く手を阻みやがった。自分を助けるために走り出そうとした相手を引き留めるなんざ正気じゃねえ。

 振りほどいて秘薬を買いに行こうとするオレ様へ男はなにやら話しかけてくる。声がか細くて何言ってるかわからねえと、耳を近づけてよく聞いてみた。すると男は今にも消え入りそうな声でオレ様へ懇願しやがった。

 賊はすべての荷物を持って行ってしまった。その中には封印を解くカギが入っていたがそれは真っ赤な偽物で、本物はこの帽子の裏に縫い込まれた刺繍を解読することでわかるんだとよ。

 毒と出血でもう命が尽きる寸前の男はさらに言葉を続けた。その帽子を俺に託すから誰にも渡さず守ってくれと。もし財宝の場所がわかって掘り出すことができる日が来たら好きにしていいとも言った。

 そこまで言い残し、男は俺の腕の中で息を引き取ったのさ。オレ様は誓ったぜ、決してこの帽子を手放さねえことと、いつの日か財宝を必ず掘り当ててみせるとな。

 そしてブリテイン北の墓場に男を埋葬し、重い頭を抱えながらねぐらへ帰ったのさ。

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 海賊と呼ばれている男が話し終わったとき、酒場は静まり返っていた。まさかあの海賊帽にそんな逸話があっただなんて……

「おっと、オレ様としたことがしんみりさせちまったかな?というわけだ、オレ様が海賊帽を被っているが海賊じゃねえってわけがわかっただろ?」

 頷いてる者、涙を浮かべている者、酒場にいる者たちの反応は様々だった。私もあふれてくる想いを抑えきれず涙が浮かんできているのがわかる。その涙が頬を伝いそうになったとき、一人の女の子が『海賊』の背後へ音もなく忍び寄っていた。

 育ちの良さそうな、およそ酒場には似つかわしくない身なりをした女の子は、なんと驚くことに『その』海賊帽を両手で取り上げたのだ。

「おい小娘!なにしやがるんだ!返せ!戻せ!同じトレジャーハンターと言えどやっていいことと悪いことの区別もつかねえのか!」

 どうやらその女の子は『海賊』と同じトレジャーハントを生業にしているようだ。

「これがその海賊帽?どこにも特別な刺繍なんて入ってないじゃない。それにこれ、それほど古いものには見えないけど?」

 その女の子の手から海賊帽をひったくり取り戻すと『海賊』はしたり顔でこう言った。

「そりゃそうさ、だってよ、さっきの話は今即興で作った作り話だからな。HEHEHE」

 それを聞いた店主や酒場の客たちは、まるで話のお代を支払うかのように、酒瓶やチーズ、ベーコンなどを『海賊』へ投げつけはじめた。それを見た私の涙は、感傷から笑いのそれへと変わっていた。

 その騒ぎを尻目に、先ほど帽子を取り上げた女の子は、なぜか安堵の溜息を洩らしたように見えた。

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 ◇◇◇◇◇◇  ◇◇◇◇◇◇  ◇◇◇◇◇◇  ◇◇◇◇◇◇  ◇◇◇◇◇◇


あとがきに変えて。

いかがでしたでしょうか。
この作品は、Neonが飛鳥で活動するために遣わしたNixieがUO内の短編小説として書いたものです。
その際、一応ロケハンをして違和感の無いよう工夫しまして書いております。
実際の町並みと合わせて風景を思い浮かべていただけたら幸いです。

ちなみになぜ小説を書いたのかというのは、飛鳥にあるRP酒場、黒熊亭で行われたイベントに合わせ思い付きで書いてみたという単純なものです。
詳細につきましては下記リンク先、黒熊亭さまのイベントページをご覧ください。



当小説は1月1日までは黒熊亭でお読みいただけます。
その後、PC図書館である Library Cafeさまへ寄稿される予定となっております。

このような小説を書く機会を与えてくださった黒熊亭の皆様にお礼申し上げます。
併せて登場人物として書かせていただいた#RPGギルドのメンバー紹介ページのリンクを貼らせていただきます。

元冒険者で黒熊亭店主、曲者ぞろいのギルド#RPGを切り盛りするギルドマスター、グレンさま


not 『海賊』 偉大なるトレジャーハンター、キャプテン・ジョーダンさま


あまりにも幸運な少女であるトレジャーサルベージャー、シャノン・ダイアーさま


また、ギルド#RPGのみなさま、黒熊亭のお客様方、LibraryCafeのラトール様、そして拙作をお読みくださったすべてのみなさまにお礼と感謝を申し上げます。
このような機会に出会うことができたのはとても嬉しく素晴らしい体験でした。
本当にありがとうございました。

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